矢澤孝子「広きゆぶね」
広きゆぶね
矢澤孝子
おほろかに湯気のこもらひつくしきひろき湯ぶねに身をひたしけり
美(くは)し少女(をとめ)くもゐしのはら化粧(けはひ)すとけはひおとすと入る温泉(いでゆ)かも
湯あがりのかるき身をなげたぐひなきここちにぞよる土耳古椅子かな
楼上の図書室ゆよしひろき川きはめて橋のほそくながきも
美しきちからをもちてひきつくる歌劇のとばりにひと吸はれゆく
はしきやしうたふ少女は春鳥かききあかなくに見のあかなくに
新しき舞台つくると秋そらの下に空地をひとらならすも
美(くは)し女(め)の歌舞に酔ひつつかへり路の橋の上こそ瞳にすがしけれ
きよらけき川をはさめる温泉(いでゆ)ふたつ夕日まあかき橋の上かな
みなかみは木洩れ日うすくはけしきやしひらけてしもの明るき河原
(※誤字脱字はご勘弁)