普通話で「花」が「ホァ」に聞こえる理屈

 普通話で「花」が「ホァ」に成る(*0)理屈は、よくよく考えると厄介な問題である。初学者である私に正しく理解できる事柄とも思わないが、思考を纏めるついでに文章化してみたい。
 まず普通話における「花=hua」の声母 "h"だが、これはIPAの分類では「無声軟口蓋摩擦音」になる。日本語のハ・ヘ・ホに表れる「無声声門摩擦音」は方言によっては用いられる事もあるため必ずしも通じないとは限らないが、普通話の正しい音からは外れると考えるべきか(*1)。んで「無声軟口蓋摩擦音」と「無声声門摩擦音」の違いは調音部位の違いなのだけど、普通話の発音指導では説明を『喉の奥から出す』くらいに留めている事例が散見される。
 厳密に差異を記述するとだ、日本語のハ・ヘ・ホに表れる「無声声門摩擦音」は舌-軟口蓋で調音されないのだから、全く筋肉が緊張しない状態からも発声できる。口を開けて、舌と軟口蓋を接近させず、喉の奥からハ・ヘ・ホを出すだけである。対して「無声軟口蓋摩擦音」は舌-軟口蓋に軽い緊張が生じる。上位カテゴリである"軟口蓋音"をみると、"案外(angai)"の"ng"や"籠(kago)"の"k"が軟口蓋音だ。これらは鼻音,破裂音であるから摩擦音よりも閉鎖が強い、舌-軟口蓋が接するわけであるが、故に緊張させる部位を意識しやすい(あと日本語音韻に存在しているし)。(※2)
 次に韻母の"ua"であるが、これは二重母音のうち"上昇二重母音"、つまり後半の方が強く発声される音だ。もちろん、o(ォ)音は混入(*0)しない。しかしIPAの母音構造を眺めると、円唇後舌狭母音[u]と非円唇後舌広母音[ɑ]の間に(日本人に耳には)"ォ"に近く聞こえる音が位置している事が分かる。あくまで推測であるが、"ua"が上昇二重母音である故に前半の[u]に対する意識が弱く、[u]の調音が[ɑ]に引きずられることで"ォ"に近い音が生じるのではないか。
 そして、中国語普通話に"hoa"音が存在しないことも影響しているものと思われる。自分が述べてきた「hua→hoa化」の推測は謂わば「怠け」であるが、"調音を怠けた"結果として同音異義語および類音異義語と被ってしまうのであれば構文エラーを起こしやすく"怠け"は許されないと認識されるのではないか。しかし、普通話に"hoa"音が存在しないことから怠けは許容されがちである、のではないか。もっともこれは補強材料のない、あくまで推測に過ぎない。「hua→hoa化」をより適切に説明する論があれば私はそれに従う。

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※0 手元の中国語音声を幾つか確認する限りでは、確かに「花のhoa化」が認められる事例が散見される。反面でhoa化しない事例もある、気がする。また華(华)はhoa化していない、気もする。これらのことから、私は「本来的にはhuaのままに発音することが正しいけれどネイティヴは何らかの条件下でhoa化して発音する」ものと推測する。

※1 日本人(の初學者)は普通話におけるf,hを「ハヒフヘホ」で発音しがちであるからネイティヴに通じない。では、fを正して、hを日本語音そのままで発音したら? これを論じるに足る材料は持ち合わせていない。

※2 と散々書いておいて何だが、差異を上手く納得できないでいる。いや、自分の声と他人の声を摺り合わせていない、摺り合わせが不足している状態か。