日本漢詩・上巻

●菅茶山「冬夜読書」

雪擁山堂樹影深
檐鈴不動夜沈沈
閑収乱帙思疑義
一穂青灯万古心
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良寛「偶作」

歩随流水覓源泉    
行到源頭却惘然    
始悟真源行不到  
倚笻随処弄潺湲


歩して流水に随って源泉を覓(もと)む
行きて源頭に到って却って惘然(ぼうぜん)
始めて悟る真源行き到らざるを
筇(つえ)に倚(よ)り随処に潺湲(せんかん)を弄せん
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頼山陽「述懐」

十有三春秋
逝者已如水
天地無始終
人生有生死
安得類古人
千載列青史


十有三春秋
逝ゆく者は已に水の如し
天地始終無く
人生生死有り
安(いずく)んぞ古人に類して
千載青史に列するを得ん
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●摩島松南「咏蠧魚」(えいとぎょ)

圖書堆裏托微躬  
長與幽人臭味同  
消受風霜文字氣  
一生不學叩頭蟲  


図書堆裏(たいり)微躬(びきゅう)を托す
長に幽人と臭味を同じくす
消受(しょうじゅ)す 風霜文字の気
一生学ばず 叩頭の蟲
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●安積艮斎「偶興」

自甘無用臥柴関
花落鳥啼春昼閑
有客来談人世事
笑而不答起看山


自ら甘んず無用柴関(さいかん)に臥(が)するに
花落ち鳥啼いて春昼閑なり
客有り来り談ず人世の事
笑って答へず起(た)って山を看る

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●安積艮斎「示諸生」

戒君勿見墨陀花
花下美人花遜華  
戒君勿見墨陀月  
月下少婦月恥潔  
先哲惜陰勤精研  
何暇花月耽流連  
吾閲書生三十年  
志業多因花月捐  


君を戒む 見ること勿かれ墨陀の花
花下の美人 花、華を遜(ゆず)る
君を戒む 見ること勿かれ墨陀の月
月下の少婦 月、潔を恥ず
先哲 陰を惜しんで勤めて精研す
何の暇あって花月流連に耽らん
吾 書生を閲(けみ)する三十年
志業 多く花月に因って捐(す)つ
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