フランス語の詩

彌生書房「世界の詩」シリーズより。

ランボー
◯『最高の塔の歌』
(Chanson de la plus haute tour)

あらゆるものに縛られた
哀れ空しい青春よ、
気むずかしさが原因で
僕は一生をふいにした。

心と心が熱し合う
時世はついに来ぬものか!

堀口大学の訳。有名なので全文転がってますね。)


ヴェルレーヌ
◯"Un grand sommeil noir"
暗く果(はて)なき死のねむり、
われの生命(いのち)に落ち来(きた)る。
ねむれ、わが望(のぞみ)、
ねむれ、我が欲よ!


わが目はや物を見ず、
善悪の記憶
われを去る……
悲しき人の世のはてや!


われは墓穴の底にありて
隻手にゆらるる
搖籃なり
ああ、黙せかし、黙せかし!


◯"il pleure dans mon coeur"
巷に雨の降る如く
われの心に涙ふる。
かくも心ににじみ入る
この悲しみは何やらん?


やるせなの心の為に
おお、雨の歌よ!
やさしき雨の響(ひびき)は
地上にも屋上にも!


消えも入りなん心の奥に
ゆえなきに雨は涙す。
何事ぞ! 裏切(うらぎり)もなきにあらずや?
この喪そのゆえの知られず。


ゆえしれぬかなしみぞ
実(げ)にこよなくも堪えがたし。
恋もなく恨もなきに
わが心かくもかなし。


●エリュアール
◯ここで生きるために
青空がぼくを見捨てたので、ぼくは火をおこした、
その友だちになるための火、
冬の夜の仲間入りをするための火、
よりよく生きるための火を。


ぼくは昼がぼくに与えたすべてのものを火に与えた、――
林、藪、麦畑、葡萄畑、
鳥の巣と鳥たち、家々とその鍵、
昆虫、花、毛皮、祝祭のことごとくを。
パチパチ爆(は)ぜる炎の音だけでぼくは生きた、
炎の熱のにおいだけで。
ぼくはとざされた水に沈んでゆく船のようだった、
死者のようにぼくはただ一つの元素しか持たなかった。


◯濡れて
石は水の上をはねかえる、
けむりは水に浸(し)みこまない。
水はなにものも傷つけることのできない


皮膚のように、
人間に、さかなに、
愛撫される。


弓弦のように音を立てて
さかなは人間にとらえられると
空気と光りとのこの惑星を
嚥みこめなくて死んでしまう。


そして人間は水の底に沈む、
さかなのために、あるいはまた
しなやかにいつも鎖された
水のにがい孤独のために。