種田山頭火『悲しき獣』

夜はかぎりなくしづみ
寒き闇果てもなうひろがりゆく
見よ獣うちかさなりて咬みあへり

もとより囚はれたる獣なり
かたみに傷つけたる獣なれば
うめきつつ、うごめきつつ

かくて死にもせず
かなしき獣は祈る
神とほく去り
幻影(まぼろし)はすでに消えたり
いつまでの長き夜ぞ
死よ、死よ、いづちへゆきし