『中国語の発音を巡る二つの問題:「華」の姓の二声化現象・「iong」の表記と四呼分類をめぐって〜〜』

http://www.adm.fukuoka-u.ac.jp/fu844/home2/Ronso/RonsyuA/Vol11-2/A1102_0027.pdf

 前段では姓を呼称する際の声調について軽く触れられている。姓は原則として第四声であるが稀?に他の声調で発声される場合があると。論文中で明確な理屈は述べられていないが、この手の破則は自然言語にありがちなことであるし、また説明が容易な事柄でもないだろう。私としても、原則と一部例外があることを記憶するに留める。
 後談は、"iong"音のピンイン表記と"注音表記"の間に存在するズレを扱っている。"iong"音は注音符号だとㄩㄥであり、ㄩㄥをピンインに変換すると"üng"になるから表記が異なりますよね?と云うお話だ。表題にある"四呼分類"とは伝統音韻学による韻母分類における呼称で、斉歯呼(iを韻頭・韻腹に含む。i-)・合口呼(u-)・撮口呼(y-)・開口呼(i,u,yを含まないor韻尾に含む。a,e,o,ai等)の四分類を指す。これは過去/現在における音韻の認識/実際、および伝統音韻学/注音/ピンインの音韻理解が問われる事柄であり、論文中でも明白な回答は書かれていない。
 これは単純に、「発音の幅が許容されている」事案かもしれない。中国語音韻を眺めていると、規則として明文化されていない(*1)表記と発音のズレが見受けられる。四呼分類を眺めると分かる通り、"iong"の段は四呼に二つ空きがある。故に厳密に発音を区別する必要がない、あるいは聴き分けを容易にするため一つの音韻であると收斂していった――と書けば論拠を缺いた逸脱になるか。

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※1 ピンイン表記と音韻の對照関係は明文化されているが、その正則中で説明がなされていない音韻規則(慣例?)がある、と思われるのだ(例:花hua→hoa)。