『漢詩大系 清詩選』を読んでの備忘録

「遺懐雑詩」袁枚


人言晩景佳 恰比少時好
我意道不然 行楽還須早
〜中略〜
生長富貴家 一日抵両日


人は言ふ晩景の佳しを 恰(あたか)も少時に比して好しと
我は意(おも)う道然(しか)ら不 行楽は還(ま)た須(すべから)く早かるべし
〜〜
富貴の家に生長せば 一日は両日に抵らん


途中、「若くて頑丈なうちに美味しい物を沢山食べたかった」「眼の元気な若い頃に本を沢山買いたかった」「貧乏だったから美人を嫁に出来なかった」とも詠っている。
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「後園居詩」趙翼


〜中略〜
乃知青史上 大半亦属誣


乃(すなわ)ち知る青史の上 大半は亦(ま)た誣に属するを


青史=歴史の意。竹簡に由来する。
誣=あざむく


氏は墓誌を依頼された(これを潤筆と呼ぶ)経験を元に、墓誌の虚飾を指摘している。
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「論詩」趙翼
李杜詩篇萬口傳
至今已覺不新鮮
江山代有才人出
各領風騷數百年


李杜の詩篇 萬口に傳う
今に至って已に新鮮ならざる(不)を覺ゆ
江山 代(かはるがはる)才人の出る有り
各(おのおの)風騷を領すること數百年
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阮元「己亥雑詩 其二」


古人製字鬼夜泣
後人識字百憂集
我不畏鬼復不憂
霊文夜補秋灯碧
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陳三立「歩月」


低吟微月裏
成就一宵愁


「月の光を浴びながら低く詩を吟じていると憂いは広がっていき夜の世界に充満した」くらいに和訳されている。

吉川幸次郎先生の著作で取り上げられている とのこと。
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譚嗣同「夜泊」


繫纜北風勁 五更荒岸舟
戌樓孤角語 殘臘異鄉愁
月暈山如睡 霜寒江不流
窅然萬物靜 而我獨何求


纜(ともづな)を繫いで北風勁(つよ)し、五更 荒岸の舟
戌樓 孤角 語(かたら)ひ、殘臘 異鄉に愁う
月暈(かさ)つけて山は如睡るが如し、霜寒くして江は流れず
窅然として萬物靜かなり 而(しかう)して我 獨り何をか求めん


五更=夜明け方
臘=12月の異稱
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王国維「欲覓」


欲覓吾心已自難 更從何處把心安
詩緣病輟彌無褚 優與生來詎有端
起看月中霜萬瓦 臥聞風裡竹千竿
滄浪亭北君遷樹 何限棲鴉噪暮寒


吾が心を覓(もと)めんと欲すれども已に自ら難し
更に何(いづ)れの處(ところ)從(よ)りか心安を把(と)らん
詩は病に緣(よ)って輟(や)め 彌(いよいよ)褚り無く
憂は生と與(とも)に來りて 詎(なん)ぞ端(たん)有(あ)らん
起(た)って看る 月中の霜 萬瓦
臥して聞く 風裏の竹 千竿
滄浪亭北 君遷の樹
何限(かぎりなき)の棲鴉 暮寒に噪(さわ)ぐ


萬瓦=沢山の瓦(屋根)
滄浪亭=名園の名
君遷樹=シナノガキ、マメガキ

吉川幸次郎先生の著作で取り上げられている とのこと。

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