『文選』拾穂・おもに詩篇より

※途中経過である
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【文選とは】
文選は、南北朝時代南朝・梁(502-557年)で作られた。
撰者には梁の皇族である蕭統(昭明太子)の名前が挙げられている。
氏は実際にも博学なのだが、作業の多くは他の知識人が担ったのだろう。
春秋戦国時代〜梁代の文学(賦・詩など)を約800を37のカテゴリに分けて掲載してある。

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【目次】
補亡 ※1
述徳 古人の徳を称えるの意
勤励 善を勧めるの意
献詩 君子に捧げる詩
公讌 讌は宴の意
祖餞 送別の意
詠史 儘
百一 ※2
遊仙 心を仙境に遊ばせる
招隠 隠者を尋ねるの意。隱棲願望。
反招隠 儘
遊覽 儘
詠懐 感懐を詠う
哀傷 儘
贈答 知人や親類に贈った詩、もしくはそれに対する返答
(これで約1/3である)

※1 詳細不明。束広微(束皙)が、詩経の中で題名を残して失われた六篇を「創作」したのか?
※2 諸説あり。あるいは百言を一篇と成す。作者の自序に「百慮一失」とあるが、あるいは向けられた非難を遠まわしに腐しているのか?
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【勤励】

「励志詩 其二」張華(張茂先)
吉士思秋 實感物化
日與月與 荏苒代謝
逝者如斯 曾無日夜
嗟爾庶士 胡寧自舍

(略) 実(まこと)に物化に感ず
日や月や (略)
逝(ゆ)者は斯くの如く 曾(すなわ)ち〜
嗟(ああ)爾(なんぢ)庶士 胡寧(なん)ぞ自ら舍(や)まん

※實は「ウ冠に是」の字

吉士 善き士、おのこ
物化 時節の移り変わり
荏苒 (何もしないまま)月日が過ぎる
代謝 謝は「退く」の意。交代。
胡寧 両方とも「なんぞ」。寧は「やすんず(安寧)」と解釈する説もあり。
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【献詩】

「関中詩」潘安仁

>肝脳塗地 白骨交衢

肝脳は地に塗(まみ)れ 白骨は衢(ちまた)に交(まじわ)る

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【詠史】

「詠史詩八首 其八」左太沖(左思)

習習籠中鳥 舉翮觸四隅
落落窮巷士 抱影守空廬
出門無通路 枳棘塞中塗
計策棄不收 塊若枯池魚
外望無寸祿 內顧無斗儲
親戚還相蔑 朋友日夜疏
(中略)
飲河期滿腹 貴足不願餘
巢林棲一枝 可為達士模


習習たり籠中の鳥 翮(つばさ)を舉(あ)げて四隅に觸(ふ)る
落落たり窮巷の士 影を抱きて空廬を守る
門を出づるも通路無く 枳棘は中塗を塞ぐ
計策も棄てて收められず 塊として枯池の魚の若(ごと)し
外に望めども寸祿無く 內に顧みるも斗儲無し
親戚も還(かへ)つて相蔑(さけず)み 朋友も日夜に疏し
(中略)
河に飲みては腹に滿つるを期し 足るを貴びては餘を顧ず
林に巢くひては一枝に棲 達士の模(のり)と為す可(べ)し

習習 詳細不明。
巷 「こみち」、もしくは「すみか」

省略部分では蘇秦と李斯の故事が引かれている。彼らは知謀が認められて栄達したが後に殺された。故に此の詩には、分外の望みを戒める意図が込められている。


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【反招隠】

「反招隠詩」王康琚

小隠隠陵藪 大隠隠朝市
伯夷竄首陽 老聃伏柱史
〜中略〜
帰来安所期 与者斉終始

小隠は陵藪に隠れ 大隠は朝市に隠(かく)る
伯夷は首陽に竄(かく)れ 老聃は柱史に伏す
〜中略〜
帰り来れよ安(いづく)ぞ期する所は 者と(与)終始を斉(ひと)しうせん

※者ではなく物が本来かもしれない
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【百一】

「百一詩」應璩

詩の表現には特に心動かされないが、「この詩は退官後の作者が人の非難に対して、自ら侮る語を述べ、かえって自ら信ずることの厚きを寓した作」と云う解説がよく分からない。皮肉、なのだろうか?
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【詠懐】
「詠懐詩 第四首」阮籍

昔日繁華子 安陵與龍陽​​
夭夭桃李花 灼灼有輝光
絓懌若九春 磬折似秋霜
流盻發姿媚 言笑吐芬芳
攜手等歡愛 宿昔同衣裳
願為雙飛鳥 比翼共翱翔
丹青著名誓 永世不相忘

昔日 繁華の子は、安陵と龍陽​となり​。
夭夭たる桃李の花、灼灼として輝光有り。
絓懌すること九春の若(ごと)く、磬折すること秋霜に似たり。
流盻して姿媚を發し、言笑して芬芳を吐く。
手を携へて歡愛を等しくし、宿昔は衣裳を同じくす。
願はくは雙飛の鳥と為り、翼を比(なら)べて共に翱翔(かくしょう)せん。
丹青もて名誓を著はし、永世相忘れざらん。

繁華=世にときめく
絓懌=よろこぶ
九春=春九十日。上句を承けて「九春の花」の意。
秋霜=ここでは霜を受けて枯れる秋草を指す。
磬折=深く腰を曲げる礼
流盻=ながしめ
芬芳=より香り
丹青著名誓=赤青の絵の具を用いて誓辞を書く、つまりは明らかな誓いを表す。


阮籍は今更取り上げる必要がない程に有名であるが、ここではBLの香りがする部分をメモしておく。
個人的な感想だが、安陵の故事は真心よりも保身が透けてみる気がして、あまり好ましく思わない。
龍陽の故事は、軽く眺める限り 計算して振舞っている気配が見えない。

●そして、此処で書かれている「比翼共翱翔」は「比翼の鳥」なのだろうか。であれば、「つがいの鳥」と和訳するのは間違いではないものの些か正確を欠く。
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「挽歌詩」繆襲(繆熙伯)

生時遊國都 死沒棄中野

朝發高堂上 暮宿黄泉下

白日入虞淵 懸車息駟馬

造化雖神明 安能復存我

自古皆有然 誰能離此者

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「古詩十九首 其四」

(中略)
人生寄一世
奄忽若飆塵
何不策高足
先據要路津
無為守貧賤
坎可長苦辛

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「古詩十九首 其十五」

生年不滿百
常懷千歳憂
晝短苦夜長
何不秉燭遊
為樂當及時
何能待來茲
愚者愛惜費
但為後世嗤
仙人王子喬
難可與等期

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「詠貧士 其一」陶淵明

萬族各有託
孤雲獨無依
曖曖空中滅
何時見餘暉
朝霞開宿霧
衆鳥相與飛
遲遲出林鳥
未夕復來歸
量力守故轍
豈不寒與飢
知音苟不存
已矣何所悲

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※主として「新釈漢文大系」に拠る。