『閑吟集』より抜粋

 ワイド版岩波文庫のそれを眺めつつ。あ、検索していたら、こゆ文章も見つけた。いずれ読もう。


■真名序より
嗟嘆之不足、永歌之。
詠歌之不足、不知手之舞足之蹈之也。
治世之音安以樂、其政和。
亂世之音怨以怒、其政乖。
正得失動天地感鬼神、莫近於詩。
詩者志之所之也。


これを嗟嘆して足ざれば、これを詠歌す。
これを詠歌して足ざれば、手の舞ひ足の蹈むを知らざるなり。
治世の音を安んじて以て樂しむ、その政(まつりごと)和すればなり。
亂世の音は怨みて以て怒る、その政乖(そむ)けばなり。
得失を正し天地を動かし鬼神を感ぜしむるは、詩より近きはなし。
詩は志の之(ゆ)く所なり。

※『詩經』からの引用とのこと


小歌之作、匪独人物也明矣。
風行雨施、天地之小歌也。
流水之涂々、落葉之索々、万物之小歌也。
加之、龍吟虎嘨、鶴唳鳳声、春而有鶯、秋而有蛬、禽獸昆虫歌、自然之小歌者耶。
而況人情乎。


小歌の作(おこ)りたる、独り人の物に匪(あら)ざるや明(あき)らけし。
風行き雨施すは、天地の小歌なり。
流水の涂々(そうそう)たる、落葉の索々(さくさく)たる、万物の小歌なり。
これに加え、龍吟虎嘨、鶴唳鳳声、春にして鶯あり、秋にして蛬(きりぎりす)あり、禽獸昆虫の歌も、自然の小歌なるものか。
而(しか)るを況(いわ)んや人情をや。


■花の錦の下紐は 解けてなかなかよしなや 柳の糸の乱れ心 いつ忘れうぞ 寝乱れ姿のおもかげ
(セックス中の表情が目に焼きついてる、の意)


■梅花は雨に 柳絮は風に 世はただ嘘に揉まるる
(世間は嘘ばかり、を詩的に表現したっと)


■それを誰(た)が問へばなう よしなの問はず語りや
(誰が尋ねたわけでもない、独り言ですよ)


■花の都の経緯(たてぬき)に 知らぬ道をも問へば迷はず 恋路など 通ひ馴れても迷ふらん


■西楼に月落ちて 花の間も添い果てぬ 契りぞ薄き燈し火の 残りてこがるる影恥かしき我が身かな


■いたづらものや 面影は 身に添ひながら独り寝
(いたづら=役に立たない。妄想で愛し人と添い寝してみても現実には独り寝です…の意)


■味気ない其方(そち)や 枳棘に鳳鸞棲まばこそ
(棘のある木に立派な鳥が棲む道理が無い。ツンデレのデレ心理と理解しておく)


■な見さいそ な見さいそ 人の推する な見さいそ
(そんなにご覧になっては人にばれてしまいます)


■世間(よのなか)はちろりにすぐる ちろりちろり
("ちろり"は、ちろっと、瞬く間の意。無常感。)


■80.思へかし いかに思はれん 思はぬをだにも思ふ世に
(思ってみなさい、きっと思われる、思われないのに思う世だもの。片思い。)


■90.扇の陰で目を蕩めかす 主ある俺を何とかしょうか しょうかしょうかしょう
(夫ある私どうしようっておっしゃるの。浮気の歌。)


■91.誰そよお軽忽 主あるを 締むるは 喰ひつくは よしや戯るるとも 十七八の習ひよ 十七八の習ひよ そと喰ひついて給うれなう 歯型のあれば顕るる
(軽忽=軽はずみ(者)。浮気の歌。)


■106.雨にさへ訪はれし仲の 月にさへなう 月によなう
(雨の日さえ訪ねてくれた仲だったのに、月夜でさえ、月夜なのに。)


■118.情は人の為ならず よしなき人に馴れ初めて 出でし都も 偲ばれぬ程になりにける 偲ばれぬ程になりにける
(謠曲:粉川寺の一節。稚児への情愛を述べている。)


■119.ただ人には 馴れまじものぢゃ 馴れての後に 離るるるるるるるるが 大事ぢゃるもの
(人を愛しすぎると離れる時が辛い、の意。)


■145.添うてもこそ迷へ 添うてもこそ迷へ 誰もなう 誰になりとも添うてみよ
(恋に迷いはつきもの、誰でも、だから誰とでもいいから恋すればいい。奥手を諭する意。)


■146.添ひ添はざれ などうらうらと なかるらう
(付き合うにしろ・しないにしろ、何で打ち解けた素振りくらい、見せてくれないの)


■147.人気も知らぬ 荒野の牧の 駒だに捕れば 終(つい)に馴るるもの
(野生の馬だって飼えば馴れてゆくのに、お前は心開いてくれないな)


■148.我をなかなか放せ 山雀とても 和御料の胡桃でもなし
(遊女の歌か。和御料=あなた。胡桃は、来るのを待つ身の意。縁断ちを望む意。)


■151.色が黒くは遣らしませ もとよりも 塩焼の子で候(そろ)
(肌の黒さを嫌うなら追い出してくださいな、塩焼きの子ですもの。)


■155.身は錆太刀 さりとも一度 とげぞしょうずら
(錆びた刀の身なれど、しかし一度はこの思いを遂げてみせましょう。)


■156.奧山の朴の木よなう 一度は鞘に なしまらしょなしまらしょ
(↑とほぼ同じ意。鞘にしてさしあげましょう。)


■171.逢ふ夜は人の手枕(たまくら) 来ぬ夜は己(おの)が袖枕 枕余りに床(とこ)広し 寄れ枕 此方(こち)寄れ枕よ 枕さへ疎むか
(独り寝の寂しさを枕に八つ当たりするの図。)


■178.一夜来ねばとて 咎もなき枕を 縦な投げに横な投げに なよな枕よ なよ枕
(なよな・なよ、は呼びかけ、なぁの意。)


■181.恋の行方を知るといへば 枕に問ふもつれなかりけり
(枕に愚痴るの図。)


■189.きつかさやよせさにしさひもお(逆読:思ひ差しに差せよや盃)
(思い差し=好きな相手に盃を差すこと。)


■210.帰るを知らるるは 人迹板橋の霜の故ぞ
(板橋の霜に足跡が残っていたから密会がばれましたの図。人迹板橋は唐代の漢詩に由来、原詩では別れの朝に自分より先に出立した足跡を見つけただけで、恋愛の含みはないかと。)


■224.深山烏(みやまがらす)の声までも 心あるかと物さびて 静かなる霊地かな げに静かなる霊地かな
高野山では深山の烏の声でさえも、深い心ありげに古めかしく聞こえる。)


■225.烏だに 憂き世厭ひて 墨染めたるや 身を墨染に染めたり
(烏の黒を僧衣に見立てている)


■244.嫌申すやは ただただただ打て 柴垣に押し寄せて その夜は夜(よ)もすがら 現なや


■248.水に降る雪 白うは言はじ 消え消ゆるとも
(白う=明白)


■263.忍ばじ今は 名は漏るるとも


■267.おりゃれおりゃれおりゃれ おりゃり初(そ)めておりゃらねば 俺が名が立つ ただおりゃれ
(おりゃる=来るの尊敬語。一人称:俺は男女とも使用した。)


■273.むらあやてこもひよこたま(逆読:また今宵も来でやあらむ)
(今夜もまた來ないのかしら、の意。)


■281.つぼいなう 青裳(せいしょう) つぼいなう つぼや 寝もせいで 眠(ねむ)かるらう
(つぼい=愛おしい、可愛い。青裳=ねむの木。)


■291.羨ましやわが心 夜昼君に離れぬ
(我が心は君の側に居るが体は離れているの意。へぇ面白い着想だ。)


■305.花見れば袖濡れぬ 月見れば袖濡れぬ 何の心ぞ
(恋心で涙もろくなった心情であるっと。)


■310.花籠に月を入れて 漏らさじこれを 曇らさじと 持つが大事な
(ポルノじみた解釈するのは無粋だと思います。)


 ……まあ他にも気になる歌は幾つか見られるが、面倒ry