坂東眞理子『愛の歌 恋の歌』
●否といへど 強ふる志斐(しい)のが強ひかたり この頃聞かずてわれ恋ひにけり
(持統天皇。)
◯否と言へど 語れ語れと詔(の)らせこそ 志斐いは奏(まを)せ 強語(しひがたり)と詔(の)る
(志斐嫗。)
●降る雪はあはにな降りそ吉隠(よなばり)の猪養(いかひ)の岡の寒(せき)なさまくに
(但馬皇女。〜の岡は、恋人が葬られた場所。)
●家にあしりひつにかぎさし納めてし 恋の奴(やっこ)のつかみかかりて
(穂積皇子。恋の情熱。)
●我(わ)を待つと君がぬれけむあしひきの 山のしづくにならましものを
(石川郎女。待ちぼうけを食った男が漏らした愚癡の歌?への返答。)
●思へども験(しるし)もなしと知るものを なにかここだく吾が恋ひ渡る
(大伴坂上郎女。)
◯夏の野の茂みに咲ける姫百合の 知らえぬ恋は苦しきものぞ
(同)
●振り仰(さ)けて若月(みかづき)みれば一目見し 人の眉引念(おも)ほゆるかも
(大伴家持)
●君が行く道の長手を繰(く)り畳(たた)ね 焼き滅ぼさむ天の火もがな
(狭野弟上娘子。)
◯塵泥の数にもあらぬわれゆゑに 思ひ侘ぶらむ 妹が悲しさ
(悲しさ=愛しさのこと。)
◯ 恋しけば来ませ我が背子垣内(かきつ)柳 末(うれ)摘みからしわれ立ち待たむ
●いとせめて恋しき時はむば玉の 夜の衣をかへしてぞきる
(小野小町。)
●暗きより暗き道にぞ入りぬべき はるかに照らせ山の端の月
(和泉式部。)
●大江山いく野の道も遠ければ まだふみもみず天橋立
(小式部内侍。)
●年くれてわがよふけゆく風の音に 心のうちのすさまじきかな
(紫式部。)
●今宵より後の命のもしもあらば さは春の夜を形見かたみと思はむ
(源資通。)
●「幼くては白河院の御懐に御足さし入れて昼も夜も大殿ごもりたれば」
(歌じゃないけど、藤原璋子との関係を記した文章がアレすぎたのでメモ。)
●下もえに思ひ消えなむ煙だに 跡なき雲のはてぞかなしき
(俊成娘)
●ものごとに愁へにもるる色もなし すべてうき世を秋の夕暮れ
(永福門院)
●今の我に世なく神なくほとけなし 運命するどき斧ふるひ来よ
(与謝野晶子)
●かの子かの子はや泣きやめて 淋しげに添ひ臥す雛に子守歌せよ
(岡本かの子)
●百人(ももたり)のわれにそしりの火はふるも ひとりの人の涙にぞ足る
(柳原白蓮)
●生きながら針に貫かれし蝶のごと 悶へつつなほ飛ばむとぞする
(原阿佐緒。)
◯黒髮もこの両乳もうつし身の 人にはもはや触れざるならむ
●濁流だ濁流だと叫び流れゆく末は 泥土か夜明けか知らぬ
(齋藤史。)
◯白きうさぎ雪の山より出でて来て 殺されたれば眼を開き居り
◯うすずみのゆめの中なるさくら花 あるいはうつつよりも匂ふを
◯どこか遠くへ行きたいと歌へり 遠くとはいづこぞまことそれを教へよ
●植えざれば耕さざれば生まざれば 見つくすのみの命もつなり
(馬場あき子)